東京都は、平成23年度都内の保健所等に寄せられた苦情・相談事例を苦情処理集計表として平成25年3月に発表しています。これをもとに、どんな苦情が寄せられているのかをまとめてみました。
また、苦情が発生した時の対応についても、その基本的な方法を記載しています。
■苦情発生時の対応
苦情には、異物混入や有症(食中毒症状)などさまざまな要因があります。従って、画一的な対処法がないのが現状です。しかし、苦情が発生し、それを解決するまでの過程にはそれぞれに共通する点が多くあります。
そこで、いざという時にスムーズな対応できるよう苦情が発生したときの対応法をまとめてみました。
個々の発生する要因は異なりますが参考になる点も多々あると思われますので、あなたのお店の危機管理マニュアルづくりにお役立ていただきたいと思います。
     
(1)事実確認及び苦情対応
① 事故発生の探知 苦情はいつ発生するかわかりません。苦情者等が直接その施設に出向いてくるか、電話などにより苦情の内容を申し出るのか、あるいは、保健所などの行政機関への通報で苦情の発生を知ることもあります。
② 事実確認 受けた日時及び苦情者等の氏名、住所、連絡先及び原因施設を特定しうる情報などについてを聞きとります。
  どのような苦情なのか、まずは相手の言い分を十分に聞き内容を正確に把握することが大切です。
  有症や異物混入などで苦情者が発症していないかどうかも確認しておきます。
  苦情の原因となった食品や対象物があれば、必ず見て確認します。必要となれば対象物を預かり保管しておきます。
また、この時が苦情者等との初めての接点となります。的確な対応は苦情をスムーズに解決するための大きな要因になることが多くあります。まずは、施設で責任ある立場の者が、誠意をもって対応することが大切であり、苦情者等には、できるだけ情報を公開するなど、誠意を込めて解決への姿勢を示すことが大切です。中には、苦情に対する対応が悪く、最初は製品の苦情が、いつの間にか、対応の仕方への苦情と変わってしまうこともあります。
③ 苦情に対する判断 苦情の内容について正確に把握し、製品の不良によるものなのか、又は、苦情者等の誤解による苦情なのかを判断する必要があります。
  製品の不良などの場合
    製品の不良によることが判明したときは、速やかに調査し、今後の対応策についても隠さず報告し理解を得るように努めることが大切です。さらに、苦情者等が新しい製品を要求するのか、製品の購入代金を返金すればよいのか、場合によっては損害賠償を要求するのかを把握することも大切です。
  苦情者等の誤解による苦情の場合
    これもよくあるケースです。苦情者等の知識不足や誤解によって生ずるものです。この場合も、よく内容を説明して理解を得るようにします。
④ 原因究明 苦情者等への対応とともに、事故再発防止のため原因の究明を早急に行う必要があります。原因が究明できたなら、再発防止の措置を早急に行います。
  異物混入の場合は、ほとんどの場合、製造した施設に原因がありますが、流通する過程で混入することも考慮して、必要に応じて外部調査することも必要です。
  食品の腐敗・変敗、有症の場合は、自分の施設での製造などが原因なのか、流通の段階で保存や保管などの不備による原因なのかを調査する必要があります。この場合は、製造担当者や営業担当者が連携を図りながら調査を行い、その結果をもとに判断をします。
⑤ 苦情の対応 ●状況によっては、真摯におわびること
  ●直ちに原因究明に取り組む意志を明確にあらわすこと
  ●途中経過を必ず苦情者に報告すること
  ●不信感、不安感を持たれないため、必要な情報公開を行うこと
  ●再発防止のための方策を明確にすること
  ●再発防止のための方策を明確にすること
【おわびのプロセス】
⑥ 改善措置 施設の問題点は、営業者から見る視点と消費者から見る視点とでは違いがあるものです。苦情の届出により、普段施設側では気がつかない問題点や不備などが見つかる場合もあります。この時は、重要な情報と捉え、施設の改善や従業員教育に役立てるようにします。
  製造業であれば、原因究明のチームを作り、仕入れから製造、出荷までの行程を洗い出し、どこで不具合が生じたのかを徹底的に調査し、不具合な箇所を取り除いたり、交換などをします。
  飲食店などで髪の毛が混入していたなどは、頭髪が出ないような帽子をかぶるなどします。
(2)危機管理マニュアルづくり
苦情の発生を探知したら、解決に向けての体制づくりをしなくてはなりません。解決に向けては、施設の規模にかかわらず最高責任者(会社の場合であれば社長)へ報告をしなくてはなりません。必要に応じてその場で指示を仰ぎます。このことによって組織全体で解決に向かうことができます。苦情への対応は、異物の混入、食品の腐敗・変敗、有症など、申し出の内容によって体制づくりも異なってきます。 いずれにしても、速やかに製品の製造量、流通量や在庫量を調査するとともに、製造担当者に苦情内容を伝え、関連する製造工程での苦情発生原因の究明をしていきます。苦情の発生原因の究明ができたら、再発防止のための対策を立てます。

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■平常時の対応
(1)衛生管理
① 自主点検表の活用 自主管理を行うための最も基本的な方策として自主点検表の活用があります。施設の重要な管理点を点検項目に選び、この管理点を定期的に点検して衛生管理を行います。点検項目は、施設の形態によってそれぞれ異なりますから、その施設にあった点検項目を選びます。
  原材料等の仕入れ時の検品
  食材、製品の保管管理のチェック
  冷蔵庫の温度チェック
  従事者の健康管理と身だしなみ
② 食材や原材料などは、信頼できる業者から納入し、定期的に検査を行う。
③ 施設の衛生管理の徹底。整理、整頓、清掃を励行する
(2)従事者の教育
① 食品衛生講習会の実施 食品衛生講習会を実施し、従業員の衛生知識の確保に務める。
② 社内研修会の実施 社内の部門内で研修会を開催し、苦情が起こったときの対応方法などを、日ごろから訓練し、いざ起こったときのシミュレーションを行い発生時に備えます。
(3)その他
① 苦情受付カードの常備 苦情が発生したときのため、苦情受付カードなどを施設(部門)ごとに備え、苦情の内容を適格に判断できるようにします。
② 全く想定できないような苦情が発生した場合は、早急に施設の責任者(最高責任者)に苦情内容を報告し、判断を仰ぐ必要がありますので、連絡網の確認を徹底します。
 
【終わりに】
自分のお店では、苦情が発生するものは絶対に提供しないという自信を持っていても、いつ苦情が寄せられないとはかぎりません。まして、食品を提供する側と消費者との間には受け止め方の相違が大小あるものです。
従って、好むと好まぎるとにかかわらず「苦情」に遭遇する機会は存在します。大切なのは、不幸にして何らかの「苦情」が起こった場合、それに対してどのように取り組み、対応するかということです。起きて(起こして)しまったことが事実である以上、逃げ隠れ、ウソやごまかしなどはせず「いかに誠意のある対応をするか」という取組み方によって、その施設は大きなダメージ、たとえば信用、売上のダウン、社会からの非難などで被る多大な損失を回避できることになります。
ところが、現実には「なんとか表沙汰にならない方法はないだろうか」とか「大きな問題にならない方法はないだろうか」などといった考え方が優先され、事態をかえって複雑化、長期化させてしまうケースも少なくありません。
きちんとした対応を怠ったため大切なお客様を逃がしてしまうのでなく、きちんとした対応することにより、お客様の信用をさらに高め、さらなるお得意さまの獲得につながるよう心がけて下さい。

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